Evertz HD9010TM HDタイムコードジェネレーター/リーダーの技術概要

公開日:2025/05/13最終更新日:2025/05/14

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この記事ではEvertzのタイムコードジェネレーター/リーダーであるHD9010について記載しています。なお、この記事は制作の一部に生成AIを使用しています。詳細な仕様に関しましてはお問い合わせフォームまたは弊社営業担当者までお問い合わせください。

1. タイムコードとEvertz HD9010TM

Evertz HD9010TMは、高精細(HD)シリアルデジタルビデオ環境向けに特化して設計された、「フル機能のタイムコードリーダー/ジェネレーターシステム」として位置づけられます [1]。本機は「HDTVタイムコードマスター」とも称され [1]、その主な目的は、HD-SDI信号内にリニアタイムコード(LTC)およびアンシラリータイムコード(ATC)を生成、読み取り、挿入、管理することにあります。これにより、放送やポストプロダクションといったプロフェッショナルなメディアアプリケーションに不可欠な、正確なタイミングと同期を実現します [2]。HD9010TMの正常な動作には、SMPTE ST 292-1(1.5Gb/s)のHD-SDIビデオ信号が必要です [1]。

2.機能:デュアルタイムコード生成・読み取り

HD9010TMの核となるのは、「デュアルジェネレーター/デュアルリーダーの組み合わせ」というアーキテクチャです [1]。これにより、以下の2種類のタイムコード形式に対応します。

  • リニアタイムコード (LTC): SMPTE ST 12-1規格に準拠します。物理的な入出力として、2系統の独立したLTCリーダー入力(XLRメス)と、2系統の独立したLTCジェネレーター出力(XLRオス)を備えています [3]。ジェネレーターの出力レベルは調整可能(0.5V~4.5V p-p)であり、リーダーは広い入力レベル範囲(0.2V~4V p-p)に対応します [1]。
  • アンシラリータイムコード (ATC): SMPTE ST 12-2規格(マニュアルではRP188とも呼ばれる [4])に準拠します。ATCは、タイムコードデータをHD-SDIビデオ信号自体(アンシラリーデータ空間)に埋め込む方式です [3]。本機は、入力HD-SDIビデオからATCパケット(LTCおよびVITCタイプ)を読み取り、出力HD-SDIビデオにATCパケットを生成・挿入します [1]。入力VITC ATCの読み取りラインは自動検出されます [1]。

LTCおよびATCの両操作において、公称フレームレートとして24, 25, 30 Fps(ビデオフォーマットに応じて23.98, 29.97などの分数レートを含む)をサポートします [3]。

放送・制作施設では、旧来のLTCに依存する機器と、SDIに埋め込まれたATCを利用する新しい機器が混在していることがしばしばあります。多様な環境に統合されるためには、両方の形式をシームレスに扱える能力が不可欠です。HD9010TMが、専用のXLRポート経由のアナログLTCとHD-SDIに埋め込まれたデジタルATCの両方を明確にサポートし、さらにLTC⇔ATC変換機能を内蔵している点は重要です。これにより、本機は様々なソース(LTC入力、埋め込みATC)からタイムコードを読み取り、必要な形式(LTC出力、埋め込みATC)で出力することが可能になります。したがって、HD9010TMは、旧式のLTCベース機器と、埋め込みATCを利用する新しいHD-SDIインフラストラクチャを統合し、異なるシステム間でタイムコードの一貫性を確保するための、ブリッジ技術としての役割を果たします [1]。

3.主な特徴と機能

HD9010TMは、基本的なタイムコード生成・読み取り機能に加え、プロフェッショナルな現場での要求に応える多様な特徴を備えています。

  • フレームレート同時生成: 2つの独立したジェネレーターを使用し、24 Fpsと30 FpsのLTCを同時に生成・出力できます。これは、1080p/24環境など、後段の異なるプロセスや機器に対して両方のフレームレートが必要となる場合に特に有用です [3]。
  • LTC / ATC 変換: SMPTE ST 12-2 ATCとLTCフォーマット間の双方向変換を行う機能を内蔵しています [3]。
  • ドロップフレーム / ノンドロップフレーム変換: ドロップフレーム(DF)とノンドロップフレーム(NDF)タイムコード間の変換が可能です [3]。具体的な使用例として、1080p/23.98sFソース素材に3:2プルダウンを追加して1080i/59.94放送マスターテープを作成する際に、DFコードを生成する機能が挙げられます [1]。
  • 高解像度キャラクターインサーター: ジェネレーターまたはリーダーのタイムコードやユーザービットデータを、HD-SDIプログラム出力に直接「焼き付ける(バーンインする)」機能です [1]。ジェネレーター用とリーダー用の表示ウィンドウは独立して位置調整が可能で [1]、文字色は白または黒から選択でき、オプションでコントラスト背景マスクも利用できます [1]。なお、文字サイズについては、「2種類」です。
  • 同期とゲンロック:
    • 多様な同期モードに対応します。ジェネレーターは、入力HD-SDIビデオ信号、または外部アナログ同期信号(NTSC/PALブラックバースト等のバイレベルシンク、HDトライレベルシンク)に同期(ゲンロック)させることができます。外部同期信号は専用のBNCループスルー入力で受け付けます [3]。
    • ジェネレーターは入力LTCまたはATCにスレーブ(追従)させることが可能です [1]。
    • 「フリーラン」モードでの動作も可能です [1]。
    • モーメンタリ・ジャムシンク:ジェネレーターをリーダーのタイムコードに一時的に同期させ、その後はリーダーのコードに関係なく独立してカウントを進めることができます [1]。
    • 24 Fpsロック:公称24 Fpsのタイムコードを生成する際、ジェネレーターのカウントシーケンスを6Hzパルス(通常は同期信号から派生)にロックすることで、フィルムレートとの精密な同期を実現します [1]。
  • 制御と設定:
    • フロントパネル:メニューシステムとディスプレイ、ボタンにより各種設定が可能です [1]。
    • GPI:6ポートのプログラム可能な汎用入出力(GPIO、DB-9コネクタ)を備え、外部機器からの制御や信号出力に使用できます [3]。GPIリモートコントロールモードでは、接点情報をATCユーザービット経由で伝送することも可能です [1]。
    • シリアル制御:2ポートのRS-232(DB-9コネクタ)を装備し、外部制御、ファームウェア更新、タイムコードデータのブロードキャストに使用されます [3]。
  • 信頼性機能(オプション): オプションとして、デュアル(冗長)電源構成と、電源障害時に信号をバイパスする入力リレーバイパス(+HBPオプション)が用意されており、システムの可用性を高めます [1]。
  • ファームウェア: ファームウェアは現場でのアップグレードが可能であり、将来的に新機能が追加された場合に対応できます [1]。

これらの機能、すなわち生成、読み取り、LTC/ATC変換、DF/NDF変換、キャラクター挿入といった複数の機能が、1RUというコンパクトな筐体に統合されている点は注目に値します。従来、これらの機能を実現するには個別の専用機器(ジェネレーター、リーダー、コンバーター、インサーター)が必要となる場合がありました。これらを一つのユニットに集約することで、システム設計が簡素化され、ラックスペースや消費電力が削減され、潜在的な故障箇所も減少します。さらに、24/30 Fps同時出力、3:2プルダウン用DF変換、ATCユーザービットを利用したGPI制御といった機能は、特定の複雑なワークフロー要求に直接応えるものであり、より複雑な設定や手作業が必要だった操作を効率化します。このように、HD9010TMは高度に統合されたワークフローツールとして設計されており、要求の厳しいHD制作環境における複雑なタイムコード管理タスクを単一のシャーシで効率化し、簡素化することを目指しています [1]。

4. 技術仕様

Evertz HD9010TMの主要な技術仕様を以下の表にまとめます。

機能カテゴリ 仕様 出典
ビデオ規格 SMPTE ST 292-1 (1.5Gb/s), ST 274, ST 296, ST 349 [3]
対応HDフォーマット 1080i/60, 1080i/59.94, 1080i/50, 1080p/30sF, 1080p/29.97sF, 1080p/25sF, 1080p/24sF, 1080p/23.98sF, 720p/60, 720p/59.94, 720p/50。自動検出または手動選択。 [8]
タイムコード規格 LTC: SMPTE ST 12-1; ATC: SMPTE ST 12-2 (RP188) [3]
HD-SDI入力 1 x BNC; 自動イコライゼーション (Belden 1694A相当ケーブル使用時 1.5Gb/sで100m、+HBPオプション時50m) [3]
HD-SDI出力 合計3 x BNC: 1系統リレーバイパス付き (+HBPオプション時), 2系統バイパス無し。信号レベル: 800mV (公称), ジッター: < 0.2UI。 [1]
LTCリーダー入力 2 x XLR 3ピン メス; 0.2V~4V p-p, バランス/アンバランス; 読み取り速度: 1/30~50倍速 (VTR依存) [1]
LTCジェネレーター出力 2 x XLR 3ピン オス; 0.5V~4.5V p-p (調整可); ライズタイム: 40±10µs, ジッター: < 2µs [1]
リファレンス入力 2 x BNC (ループスルー, ハイインピーダンス終端); 対応信号: NTSC/PAL ブラックバースト (1V p-p), バイレベルシンク (300mV), HDトライレベルシンク (メニュー選択可) [1]
GPI I/O 6ポート プログラム可能I/O; DB-9 メス 高密度; アクティブロー, +5V 内部プルアップ [1]
シリアル制御 2 x RS-232; DB-9 メス “D”; ボーレート選択可 [1]
電源 100-240V AC 自動切替, 50/60Hz, 消費電力40W; オプションでデュアル電源構成可能 [1]
物理仕様 1RU: 幅483mm x 高さ44/45mm x 奥行477mm (19″ W x 1.75″ H x 18.75″ D); 重量: 3.5 kg (8 lbs) [1]
適合規格 安全性: TÜV Listed, EU安全指令準拠; EMI/RFI: FCC Part 15 Class A, EU EMC指令準拠 [1]

特にHD-SDI出力における< 0.2UIという低ジッター仕様は、後段の機器への信号伝送における品質維持に貢献します。

5. アプリケーションと使用事例

HD9010TMは、HDビデオ制作環境における正確なタイムコード同期と管理のための専用デバイスとして設計されています [2]。複数の映像・音声機器間の同期を確保し [6]、制作ワークフロー全体を円滑化します。

  • 放送局運用: 放送施設において、HD9010TMのようなマスタータイムコードジェネレーターは、施設全体の正確な時間基準を提供する中心的な役割を担います。これは、番組編成、自動送出システム、サーバーでの素材再生など、時間精度が要求されるあらゆる運用に不可欠です [7]。ハウスシンク(BB/トライレベル)へのゲンロック機能や、オプションの冗長電源は、高い信頼性が求められる放送環境に適しています [3]。Evertz社はタイムコードやクローズドキャプション機器から事業を開始した歴史を持ち、放送業界、特に北米市場で高いシェアを誇ります [8]。HD9010TMは、同社の代表的なタイムコード製品の一例として挙げられています [8]。
  • ライブプロダクション: ライブTV中継やイベント制作においても、本機の重要性は高いです [9]。HD9010TMのようなマスターソースから供給される正確で同期したタイムコードは、複数のカメラ映像をタイミングのずれなくシームレスに切り替えるために不可欠です [6]。LTC出力は様々なレコーダーやシステムに供給でき、ATCはSDIソース間の同期を維持します。
  • ポストプロダクション: ポストプロダクションワークフローにおいても、HD9010TMは有効です。撮影現場で(本機または本機に同期したデバイスを用いて)生成された正確なタイムコードは、編集タイムライン上でマルチカメラ映像や別収録された音声を整列させる作業を劇的に簡素化し、時間とコストを削減し、エラーを低減します [6]。DF/NDF変換機能や24/30 Fps同時生成機能は、異なるソース素材や納品フォーマットが混在する複雑なポストプロダクションワークフローにおいて特に役立ちます [1]。Evertzはポストプロダクション向けのソリューションも提供しています [10]。

制作環境(放送、ライブ、ポストプロダクション)では、単一種類の機器や信号フォーマットのみが使用されることは稀であり、多くの場合、異なるカメラ、レコーダー、スイッチャー、オーディオ機器が混在し、それぞれが異なるフレームレートやタイムコード方式(LTC対ATC)を使用している可能性があります。このような状況では、様々なソースからタイムコードや同期信号を入力し、必要に応じて変換・処理を行い、接続された全ての機器に対して一貫性のある正確な基準信号を分配できる中央デバイスが必要となります。HD9010TMが持つ入出力の柔軟性、多様な同期ソースへの対応、フォーマット処理能力(LTC/ATC、DF/NDF)、そしてフレームレート対応の広さは、まさにこの中央同期ハブとしての役割を効果的に果たすことを可能にします。単なるジェネレーター/リーダーに留まらず、その包括的な機能セットは、多様で複雑化する可能性のあるHD制作エコシステム全体にわたって、正確な時間基準を管理・分配できる汎用性の高い同期ハブとしての位置づけを確立しています [1]。

6. 派生モデルとオプション

標準のHD9010TMに加え、特定のニーズに対応する派生モデルやハードウェアオプションが存在します。

  • HD9010TM-IRIG 派生モデル: HD9010TM-IRIGは、標準モデルの機能に加え、IRIG-Bタイムコードリーダー機能と、IRIG-BデータをVANC(Vertical Ancillary Data)パケットとして生成・読み取りする機能を追加したモデルです [11]。主に米国の政府機関や関連産業で使用されるIRIG-Bコードに対応し、キャラクターインサーターで日、時、分、秒、ミリ秒を表示できます。入力されたIRIGシリアルタイムコードにSMPTEタイムコードジェネレーターをスレーブさせることが可能で、ミリ秒カウントは最も近いフレーム番号に変換され、IRIGの通年日と共にジェネレーターのユーザービットに格納することもできます。IRIGソースに同期させる場合、特にNTSC関連のビデオシステムでは、モーメンタリ・ジャムシンクを使用し、SMPTEジェネレーターをドロップフレームモードで動作させることが推奨されています [11]。
  • ハードウェアオプション: 前述の通り、以下のハードウェアオプションが利用可能です。
    • デュアル冗長電源 [1]
    • 電源障害時保護用入力リレーバイパス (+HBPオプション) [1]

7. まとめ

Evertz HD9010TMは、デュアルLTC/ATC生成・読み取り機能、HDフォーマット対応、同期オプション、統合されたキャラクターインサーター、変換・翻訳機能(DF/NDF、LTC/ATC)、そしてオプションによる信頼性強化といった、数多くの強みを備えたHDタイムコードマスターです。

本機は、プロフェッショナルなHD放送、ライブプロダクション、ポストプロダクションのワークフローにおいて、正確なタイミングと同期を確保するためのツールとして位置づけられます。複雑なタイムコード管理を簡素化し、レガシーシステムと最新システム間の橋渡し役を果たす能力があると言えます。

結論として、HD9010TMは、現代のHDビデオ環境におけるタイムコードの複雑性を管理するための、多機能で汎用性の高いソリューションを提供します。これは、タイムコードおよび放送インフラストラクチャにおけるEvertz社の長年にわたる専門知識を反映した製品であると言えます [8]。

8.該当製品

引用文献

  1. The Importance of Timecode Synchronization in Multi-Camera Productions – Medialooks, 5月 13, 2025にアクセス、 https://medialooks.com/articles/the-importance-of-timecode-synchronization-in-multi-camera-productions/
  2. Mastering Timecode in Premiere Pro: Understanding Its Role in Video Editing, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.nobledesktop.com/learn/premiere-pro/mastering-timecode-understanding-its-role-in-video-editing
  3. Timecode in digital cinematography – An overview – Pomfort, 5月 13, 2025にアクセス、 https://pomfort.com/article/timecode-in-digital-cinematography-an-overview/
  4. How to Sync Audio for Modern Video Production Workflows | No Film School, 5月 13, 2025にアクセス、 https://nofilmschool.com/how-sync-audio-modern-video-production-workflows
  5. HD9010TM – HD Time Code Generator/Reader – Evertz, 5月 13, 2025にアクセス、 https://evertz.com/products/HD9010TM
  6. EVERTZ HD9010TM HD Time Code Generator/Reader – BS Broadcast, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.bsbroadcast.com/evertz-hd9010tm-hd-time-code-generator-reader.html
  7. Evertz HD9010TM HD Timecode Generator/Reader | Full Compass…, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.fullcompass.com/prod/228283-evertz-hd9010tm-hd-timecode-generator-reader
  8. HD9010TM HDタイムコードジェネレーター/リーダー/evertz | 株式…, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.technohouse.co.jp/product/hd9010tm-hd/
  9. Evertz HD9010TM HD Time Code Master Reader Generator System LTC ATC 2x PS | eBay, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.ebay.com/itm/235087394447
  10. HD9010TM High Definition Time Code Master Manual – Evertz, 5月 13, 2025にアクセス、 https://evertz.com/resources/manuals/?id=569
  11. HD9010TM | HD Time Code Generator/Reader | Evertz – AV-iQ Australia, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.av-iq.com.au/avcat/ctl18779/index.cfm?manufacturer=evertz&product=hd9010tm
  12. The use of Time Code within a Broadcast Facility – Telestream, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.telestream.net/pdfs/app-notes/Use-of-Time-Code-within-a-Broadcast-Facility-20W299260.pdf
  13. Master Clock For Broadcasting Industries/Company – What Makes It So Crucial? | Our Blog, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.empiricalts.com/Master_Clock_For_Broadcasting_Industries.html
  14. Evertz Microsystemsについて -放送システムのIP化で10年以上の実績…, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.technohouse.co.jp/solution/354993/
  15. Solutions by Product Type – Evertz, 5月 13, 2025にアクセス、 https://evertz.com/products/
  16. 導入事例・特集 | 株式会社テクノハウス, 5月 13, 2025にアクセス、 https://www.technohouse.co.jp/c/solution/
  17. HD9010TM-IRIG | HDTV Time Code Master with IRIG Reader | Evertz | McCann Systems, 5月 13, 2025にアクセス、 https://avproducts.mccannsystems.com/avcat/ctl11226/index.cfm?manufacturer=evertz&product=hd9010tm-irig